2010年6月7日月曜日

第2回まるはち人類学研究会 マテリアリティ―モノから社会を見通す方法試論―

下記の要領で研究会をおこないます。
皆様ふるってご参集ください。

日時:6月26日(土):14時-17時40分 終了後懇親会あり

場所:南山大学名古屋キャンパス人類学研究所 1階会議室
http://www.nanzan-u.ac.jp/JINRUIKEN/index.html

14:00-14:10 趣旨説明
14:10-14:40:中尾世治(南山大学大学院人間文化研究科人類学専攻博士前期課程)
マテリアリティについて: モノの残り方・細部・意味
14:50-15:20:後藤澄子(名古屋大学大学院文学研究科博士課程後期)  

仮面の形態と意味カメルーン高地ンカンベ社会の事例から
15:30-16:00:青木啓将(名古屋大学大学院文学研究科博士研究員)
「和鉄」のマテリアリティとつくられる「意味」
16:10-16:25:コメント 後藤明(南山大学)
16:25-16:40:コメント 佐々木重洋(名古屋大学)
16:40-17:40:討議


「マテリアリティ―モノから社会を見通す方法試論―」(注1)

文化人類学において、モノを中心的な題材として扱う研究(以下「物質文化研究」)の萌芽は、19世紀文化人類学草創期の博物学・進化論的関心に基づいたモノの収集・分類にある。しかしながら、1920年代以降台頭する機能主義や文化相対主義による、物質文化を対象・論拠とする進化主義ないし伝播主義的研究への批判は、「物質文化研究」の衰退にもつながった(Pfaffenberger1992:491)。

また1970年代の構造主義人類学以降の象徴・記号論において、モノは文化的意味をはこぶ媒体として捉えられ、静態的な象徴体系のなかの意味を読みとくための手段(記号)として位置づけられた。こうした方法は、1970年代以降登場したボードリヤール(1979)やダグラスら(1984)による消費社会論においてもみられた(伊藤1997:113)。

このような記号論的にモノの意味を分析する研究や「モノそのものの研究の範囲をこえない場合が多かった」(祖父江ほか1978:282)「物質文化研究」に対して、「モノと人との関係性」に着目し、モノの生産・消費を関係論的に論じる視座に基づいた論者たちが登場してきた(e.g. Appadurai ed. 1986, Lemonnier ed.1993 , Miller ed. 1998)。これらの議論は、文化人類学において衰退してきた「物質文化研究」にとって、文化・社会を見透す視座を提供し、モノの重要性を喚起することで一定の成果をあげてきたように思える。

だが一方で、「モノと人との関係性」に着目するとはいうものの、それは実のところ「モノの背後にある人と人との関係」をみているのではないか(近藤編2003:301)、あるいは、モノを対象とする文化人類学的研究は未だに象徴的意味の追求や記号論的解釈から脱却されてはいないのではないか(大西2009:168)という見解もある。こうした見解の背景には、さまざまな次元での意味を媒介してつながっているモノから社会へという関係性をどのように論じるのかという整理されつくされていない課題が存在していることが指摘できよう。

「マテリアリティ―モノから社会を見透す方法試論―」と題した本企画では、上記のモノを扱ってきた文化人類学的研究の展開と問題を踏まえ、社会との結節点のひとつであるモノの意味とモノのマテリアリティ(物質的特性)の差異や連関に着目することで、モノそれ自体から社会へと論じ、マテリアリティを焦点化する意義と展望を議論したい。

モノに関する記述は「物質文化研究」に限らずあらゆる民族誌的調査の基礎でありつづける。宗教現象、医療、開発などのいかなる研究領域においても、モノが一切あらわれないことなどないだろう。儀礼に用いられるモノ、身体に関与するモノ、市場価値に翻弄され変容するモノなどにかこまれた人間の種々の営みは、モノなしには成立しない。この点において、これらのモノは人間の認識や行為を構成しているといえる。しかし、民族誌や論文の端々にあらわれてはきえるこれらのモノはどこから来てどこへ行くのだろうか。マテリアリティとモノから文化人類学全体を見通そうとすること、本企画にはそのような意図も込められている。

注1:本企画では、人工物(artifact)を意味する語としてモノという表記に統一した。〈もの〉をあらわす語には、もの・物・モノ、thing, object, material, artifactなどがある。哲学者の坂部恵は、日本語の〈もの〉概念を検討のなかで、〈もの〉という語が、「ひとを超えた〈おどろおどろしく〉、〈ゆゆしい〉ものにまでおよぶ他者ないし他者性の意味契機を、すくなくとも古来その重要な一環として含む」こと(坂部2007:351)や「ごく一般的な〈ものごと〉一般を指し示すこと」(坂部2007:352)を指摘している。このような含意をもつ〈もの〉概念とは区別し、モノはあくまでも人工物をさす語として用いている。人工物としてのモノは、刀や仮面などといったそれぞれの人工物としての意味をなしている。これに対して、モノのマテリアリティとは、刀であれば和鉄など、仮面であれば木材などといった、モノの素材、形、重量等の物理的性質、さらには、人工物としての意味を越えてモノが「喚起」するものとして、本企画では用いている。カテゴリーの次元が異なるため、同一の物体をさしながらも、モノとモノのマテリアリティとは、異なる意味をもつ。マテリアリティを強調することによって、対象となる物体を単なるモノとして把握しないこと、同一の物体をさしながらも異なる意味をもつというモノとモノのマテリアリティの差異と連関に着目することを、モノと社会を見通す方法試論のひとつとして提示しようと考えている。

参照文献
Appadurai ,A (ed.)
1986 The Social Life of Things. Cambridge University Press.
Pfaffenberger, B
1992  Social Anthropology of Technology, Annual Review of Anthropology 21 , pp.491-516.
Lemonnier,P (ed.)
1993 Technological Choices : Transformation in Material Culture Since the Neolithic, Routledge.
Miller,D (ed.)
1998 Material Cultures, Chicago University Press.
大西秀之
2009 「モノ愛でるコトバを超えて」『フェティシズム論の系譜と展開』田中雅一(編)、
京都大学出版会、pp.149-175。
伊藤眞
1997 「消費と欲望の形成」『「もの」の人間世界』内堀基光(編)、岩波書店、pp.113-136。
近藤雅樹(編)
2003 『日用品の二〇世紀』、ドメス出版。
坂部恵
2008 「ことば・もの・こころ」『坂部恵集3 共在・あわいのポエジー』、岩波書店、pp.343-368。
祖父江孝男ほか
1978 「物質文化研究の方法をめぐって」『国立民族学博物館研究報告』3(2)、pp.280-336。
ダグラス,M、イシャウッド,B
1984 『儀礼としての消費』浅田彰ほか(訳)、新曜社(原著は1978年)。
ボードリヤール,J
1979 『消費社会の神話と構造』今村仁司ほか(訳)、紀伊国屋書店(原著は1970年)。

発表1:中尾世治(南山大学大学院人間文化研究科人類学専攻博士前期課程)
マテリアリティについて: モノの残り方・細部・意味

本報告では、モノとその意味の連関の把握のあり方について検討し、そのなかでマテリアリティからどのようなことを考えうるかということを明らかにする。

具体的には、まず、80年代以降の人類学におけるモノ研究において、一定の影響を与えたアパデュライとミラーの経済人類学的モノ研究を検討し、贈与-市場交換という問題系から転じて「消費」のみに焦点をあてたこれらの議論がモノの重要性を主張しながらも、むしろモノの細部とその意味を捨象してしまうことをしめす。そのうえで、経済人類学的モノ研究への民族考古学者による批判と展望を踏まえ、モノの意味を対象とする際に、モノのマテリアリティとモノの意味とをその双方において把握し、両者の連関をさぐることを主軸にすえるべきことを主張する。

このことを踏まえ、民族考古学において議論されてきたモノのライフ・サイクルという視角から、マテリアリティに則して材料の「獲得」から「廃棄」までを一貫してモノのライフ・サイクルのなかで捉えること、人間の活動のなかに入るモノは残された/残ってしまったモノであることを確認する。さらに、マテリアリティによって、人間の寿命もモノの使用寿命もさまざまに規定され、モノのライフ・サイクルと人間のライフ・サイクルの異同に着目すべきであること、モノがマテリアリティとして残される/残ってしまうことによって、モノの意味が変容/固定化されてしまうこと、モノが価値体系間を移動するだけでなく、価値体系そのものを構成・変容させてしまうということを指摘する。

残された/残ってしまったモノという視角を保持しつつ、モノの細部と意味との連関をいかにして捉えるかを、分析哲学のネルソン・グッドマンによる「例示」と「表出」の概念から検討する。「あるものが藝術作品であるのはいかなる場合なのか」という問いを「美」の概念の歴史性・政治性の問題ではなく、記号の問題として捉えたグッドマンは、織物の見本を例にして、モノのマテリアリティのなかでいくつかの要素が抽出されるという「例示」のされ方が、美術館に置かれたモノと道端にあるモノとの差異であること指摘している。また、あるモノが「悲しい」などといわれるのは、「例示」において抽出された要素がメタファーを介して「悲しさ」を「表出」しているのだとしている。マテリアリティに則して考えるのであれば、これらの「例示」と「表出」の概念は、モノの細部と意味、そしてその連関を記述する手法として理解できる。

以上の検討から、マテリアリティという概念からどのようなことを考えうるか、指摘しうることは何かということを明らかにしたい。

主要参考文献

大西秀之

  2009 「モノ愛でるコトバを超えて 語りえぬ日常世界の社会的実践」、田中雅一編『フェティシズム論の系譜と展望』: 149-174、京都大学学術出版会

グッドマン、N.

  2008 『世界制作の方法』菅野盾樹訳、筑摩書房

後藤明

  1997 「実践的問題解決過程としての技術――東部インドネシア・ティドレ地方の土器製作」、『国立民族学博物館研究報告』22(1): 125-187.

  1998 「考古学的組成の民族考古学的考察」、安斎正人編『民族考古学序説』: 78-99、同成社

  2002 「技術における選択と意思決定――ソロモン諸島における貝ビーズ工芸の事例から」、『国立民族学博物館研究報告』27(2): 513-539.

後藤明編

  2007 『土器の民族考古学』、同成社

ジンメル、G.

 1976 「美学に寄せて 廃墟」、円子修平・大久保健治訳『ジンメル著作集7 文化の哲学』: 137-147、白水社

菅野盾樹

  1999 『恣意性の神話 記号論を新たに構想する』、頸草書房

余語琢磨

1999 「「もの」をめぐる文化的行為」、川野健治・圓岡偉男・余語琢磨編『間主観性の人間科学』: 85-121、言叢社

Appadurai, A.

  1986 Introduction. In A. Appadurai(ed.) The Social Life of Things: commodities in cultural perspectives.: 3-63. Cambridge; Cambridge University Press.

  2005 Materiality in the future of anthropology. In Binsbergen, M. and P. Geschiere(eds.) Commodification: things, agency, and identities.: 55-62. London; Transaction Publisher.

Graeber, D.

  2001 Toward an Anthropological Theory of Value: the false coin of our own dreams. New York; Palgrav.

Henare, A., Holbraad, M., and S. Wastell.

  2007 Introduction: thinking through things. In Henare, A., Holbraad, M., and S. Wastell. (eds.) Thinking through Things: theorizing artifacts ethnographically.: 1-31. London; Routledge.

Kopytoff, I.

  1986 The Cultural Biography of Things: commoditization as process. In A. Appadurai(ed.) The Social Life of Things: commodities in cultural perspectives. : 64-91. Cambridge; Cambridge University Press.

Lemonnier, P.

  1992 Elements for an Anthropology of Technology. Ann Arbor; Museum of Anthropology, University of Michigan.

Lemonnier, P. (ed.)

  1993  Technological Choices: transformation in material cultures since the neolithic. London; Routledge.

Miller, D.

  1995 Consumption and Commodities. Annual Review of Anthropology 24: 141-161.

  1998 Why some things matter. In D. Miller(ed.) Material cultures: why some things matter.: 3-21. Chicago; Chicago University Press.

  2005 Materiality: an introduction. In D. Miller(ed.) Materiality.: 1-49. Durham; Duke University Press.

Schiffer, M.

  1972 Archaeological Context and Systemic Context. American Antiquity 37(2): 156-165.

  1987 Formation processes of the archaeological record. 1st ed. Albuquerque; University of New Mexico Press.

発表2:後藤澄子(名古屋大学大学院文学研究科博士課程後期)
仮面の形態と意味カメルーン高地ンカンベ社会の事例から
仮面にたいして人々はどのような認識を持っているのだろうか。そして彼らの認識とモノとしての仮面はどのような関係を持つのだろうか。本報告ではカメルーン高地ンカンベ社会における仮面を事例に、モノにたいして人々が与える意味づけとモノの物質性との連関を考察する。
カメルーン高地のバメンダ高原一帯にはティカール系諸民族が形成した大小さまざまな規模の首長制社会が点在する。これらはフォンfonと称される神聖を持った王を頂点に据えた小さな王国であり、王権と結び付いた仮面はこれら諸社会の特徴とされる[1990]。ンカンベはティカール系首長制社会のひとつである。
仮面結社ムワロンは150年ほど前に近隣村から購入された。結社が所有する仮面群は個々にキャラクターが与えられ、仮面同士はヒエラルキーを構成する。そして仮面の性格は面、衣装、持ち具といった外見的特徴やパフォーマンスにより演出される。
仮面に関するさまざまな情報は、仮面の所有者である結社員間で共有されるが、結社内の階梯によって知識量に差がある。たとえば仮面に呪力を与えるために使用される薬の知識は高位成員が掌握する。仮面の装着や保管、修繕などの役割も結社員のヒエラルキーに従い分担されている。一方、非結社員の人々にとって仮面に関して得られる情報は限られる。それは結社によって情報が秘密化されているためである。しかし彼らもまた仮面のパフォーマンスに観衆として関わることで仮面の役割や意味を認識している。
本報告では仮面のマテリアリティに着目し、仮面の形態による分類を行う。ムワロンの仮面の形態は,ラフィアヤシの繊維を材料としたネット(lo)で頭部を覆いその上に鳥の羽根や染色を加え装飾を施すものである。仮面の種類によってはネットの上にヘルメット型あるいはフェイス型の木製面(psi またはmir)を取り付けるものもある。本発表ではネットで頭部を覆うタイプを網状面,ネットで頭部を覆いさらに木製面を加えたタイプを木製面と区別する。その上で結社員による語りをもとに仮面が持つ性格や役割についてまとめる。そして結社員による分類と形態がどのような連関を持つかについて考察する。
引用文献
端信行1990
「王制と秘密結社」、『赤道アフリカの仮面』、国立民族学博物館:96-101,端信行・吉田憲司(編).
主要参考文献
井関和代
2000 「アフリカの布-サハラ以南の織り機・その技術的考察-」,河出書房新社.
佐々木重洋
2010 「音声の優越する世界―仮面結社の階梯と秘密のテクスト形態―」,『森棲みの社会誌』京都大学学術出版会,329-344,木村大治・北西功一(編).
下休場千秋
2005 「民族文化の環境デザイン」,古今書院.
ソー・ベジェン・パイアス
1987 「カメルーン高地社会における王権の象徴-その意味と役割-」,『アフリカ民族学的研究』同朋舎, 105-126, 和田正平().
端信行
1990  『赤道アフリカの仮面』,国立民族学博物館,端信行・吉田憲司().
1993 「カメルーン高地農民の経済生活その変容のメカニズム」,『国立民族学博物館研究報告』Vol. 18, No. 115-45.
和崎春日
1990 「カメルーン・バムン王権社会のヤシ文化複合-民族文化の創造と現代的展開」,『国立民族学博物館研究報告』別冊12号:377446.
Argenti, Nicolas
2007  The Intestines of the State, The University of Chicago Press.
Carpenter, F.W.
1934 Intelligence Report on Nsungli area,Bamenda Division, Bamenda.
Bongwa, Elias Kifon
2001 African witchcraft and otherness, State University of New York Press.
Eldridge, Mohammadou
1986 Traditions d’origine des peoples du center et de l’ouest du Cameroun,African languages and ethnography ⅹⅹ; Institute for the study of Languages and cultures of Asia and Africa(ILCAA) , Morimichi Tomikawa(ed).
Mangh,Jones Tanko Kort
1986 The Wimbum of the North-West Province of Cameroon :c1700-1961, B.A.hons.thesis,University of Ilorin, Nigeria.
Nkwi,P. and Warnier,J-P
1982 A History of the Western Glassfields, Publication of the Department of Sociology University of Yaounde.
Perrois,Louis and Notuê,Jean-poul
1997 Rois et Sculpturs de L’ouest Cameroun, Karthala-Orstom.

発表3:青木啓将(名古屋大学大学院文学研究科博士研究員)

「和鉄」のマテリアリティとつくられる「意味」

人がモノをつくり「意味」を付与する過程に対して、モノの物質的特性(マテリアリティ)はどのように作用しているのだろうか。本報告では、岐阜県関市の日本刀製作を事例に、モノの生産におけるマテリアリティの作用を検討し、その作用と「意味」の生成の関係性について考察する。

日本刀製作は、大きく、刀身製作、刀身研磨、外装具製作に分けられる。一振りの日本刀は、上記三つの仕事が別々のつくり手により分業されて製作される。本報告で取り上げるのは、「刀匠」(とうしょう)と呼ばれるつくり手による刀身製作である。刀匠は、鉄を材料に、鍛冶技術を用いて刀身のほか、鐔やナイフ等の鉄製品も製作[1]できる。それらの鉄製品の材料は「和鉄」と呼ばれる。これは日本古来の製鉄方法である「タタラ製鉄法」によってつくられた鉄である。「和鉄」は、明治前期を境に日本に導入され、現在広く普及した近代的製鉄法によってつくられる「洋鉄」[2]と比較して化学成分に不純物の少なく、そのことが日本刀の刀身の材料に適している点でもあるといわれる。

 また刀匠の鉄製品の製作には、製作技術と関連する媒介物として、粘土や木炭がある。粘土は鍛冶で用いる炉の素材である。木炭は炉の中で用いる燃料である。その一方で、両者は鍛造作業において、製作者と「和鉄」の触媒にもなる。

本報告ではまず、先の「和鉄」、粘土、木炭等の物質的特性が物理的に製作技術を規定するものであるのか検討する。つぎに、それらの物質的特性が製作者にいかに認識され、材料の選択、加工に作用するのかについて検討する。そして、マテリアリティとそれに対する認識は、完成される鉄製品に付与される意味とどのような関係性をもつのかについて考察することになる。






[1]日本刀は歴史的に武器、芸術、儀礼物としての意味を付与され、使用されてきた。現代では芸術あるいは「美術」として扱われる。「伝統工芸品」のカテゴリーにも入る。語法としては、ここでは「製作」ではなく「制作」という語を用いることが妥当であるとも考えられる。だが本報告では、相対的視座から、芸術あるいは「伝統工芸」もまた、モノに付与される意味のひとつとして捉え、日本刀もまたひとつのモノとして捉える。


[2] もっとも現代社会において広く流通し消費されるのは、ここでいう「洋鉄」である。「洋鉄」には、刃物、建築、機械工具等、用途別にさまざまなヴァリエーションがある。成分もさまざまである。
主要参考文献
Lemonnier, P.

1992  Elements for an Anthropology of  Technology, Museum of  Anthropology, University

of  Michigan.

Lemonnier, P. (ed.)

1993  Technological Choices: transformation in material cultures since the Neolithic, Routledge.

青木啓将

 2009a 「現代刀の作風:関の刀匠の作品の事例から」『民族藝術』25pp.152-157

 2009b 「こだわりとウリ:岐阜県関市の一刀匠の自家製鉄」『人文科学研究』38pp.109-116

2009c  「日本刀の価値と刀匠のアイデンティティ」『東アジア研究』52pp.3-16

2009d 「日本刀剣界の〈美術〉性をめぐるせめぎ合い:岐阜県の「関の刀匠」の日常的実践」『日本民俗学』260pp.1-34

尾上卓生・矢野宏

 1999 『刃物のおはなし』日本規格協会。

香月節子

 2002 「近代洋鋼の流通とその性格」『もの・モノ・物の世界:新たな日本文化論』雄山閣、pp.69-89

グッドマン、N.

2008 『世界制作の方法』菅野盾樹(訳)、筑摩書房。

後藤 明

2002 「技術における選択と意思決定:ソロモン諸島における貝ビーズ工芸の事例から」『国立民族学博物館研究報告』27(2)pp.513-539

俵 國一

 1953 『日本刀の科學的研究』日立評論社。

橋本毅彦
  2001 「近代科学と伝統技術の遭遇:俵國一の日本刀の冶金学的研究」『科学の文化的基底(Ⅱ)』、pp.225-237

矢野 宏

 1979 「包丁の感覚切味の定量化」『精密機械』45(12)pp.71-76

 1992 『測る:感覚を科学する』日刊工業新聞社。