2012年9月27日木曜日

第13回まるはち人類学研究会 老いや病をめぐる事象を探究する―人類学×看護学

皆様

野分の候、益々ご健勝のことと存じ上げます。
第13回まるはち人類学研究会開催が決定し、
プログラム等の詳細が決まりました。
お忙しいと時期は思いますが、
すがすがしい秋空の下皆様に会場でお目にかかれますことを楽しみにしております。



第13回まるはち人類学研究会

老いや病をめぐる事象を探究する―人類学×看護学


日時:2012年10月6日
会場:中部大学名古屋キャンパス510教室(http://www.chubu.ac.jp/location/
 名古屋市中区千代田5-14-22( JR中央本線「鶴舞」駅名大病院口(北口)下車すぐ、
 地下鉄「鶴舞」駅下車北へ約100m)


 14時30分~14時40分 趣旨説明
 14時40分~15時20分 発表者:菅沼文乃(南山大学)
 15時25分~16時5分  発表者:大谷かがり(中部大学)
 16時10分~16時50分 発表者:梅田奈歩(中部大学)
 17時5分~17時25分 コメント:工藤由美(亀田医療大学)
 17時25分~17時55分 質疑応答


<企画趣旨>
 大谷かがり

人類学では老いや病をめぐるさまざまなフィールドで調査が行われ、研究が発表されている。そのテーマは、患者の生活世界、ケアや健康の概念の多様性や多義性、死や生に関する儀礼、臓器移植、介護など枚挙に遑がない。人類学は比較的規模の小さい集団を丹念に調査し、人びとの社会関係をあぶりだすことをその特徴としているが、老いや病をめぐるテーマの場合、病者や老人の身体的状況とその背景に焦点が当たる傾向にある。当たり前であるが、生や死は身体から生起するのであるから、生や死が身近でない人たちにとっては、フィールド自体が非日常的であるし、フィールドの背景には繊細で複雑な事情が存在する場合もある。そのため、調査者では踏み込めない専門家の領域が存在することもあるだろう。こういった事情が身体的状況とその背景に焦点を当てさせるのかもしれない。
 しかしながら、老いや病に関するフィールドにも社会があり、人びとの関係性がある。したがって今回は3名の発表を通して、老いや病をめぐる事象の主役、患う人、その身体的状況とともに、登場する人びとの関係性やその変化を丁寧にみていくことを目的としている。
池田 [2010]は、各地域の身体や命をめぐる様々な概念や事象を事例に挙げ、臨床にかかわる様々な事象を相対化し、臨床での医療者優位のあり方を批判した。池田は、看護の人類学研究を整理したうえで、看護は看護師と患者の相互行為であるが、既存の研究では看護師から患者への一方通行の行為に焦点が当てられており看護師が見えてこないことを指摘する。そのうえで、患者と看護師の相互行為として看護をとらえることの重要性を説く[池田 2010]。
しかし、身体や命をめぐる様々な事象を相対化するだけでは、患者と看護師の相互行為に焦点は当たらない。私は臨床で看護師として働いた経験や病院での実習指導を通して、看護師は、看護は患者と看護師の相互行為であると自覚していると思う。そうであるならば、自覚的に相互行為を取り上げる必要がある。
また、また身体や命をめぐる場にはいくつかの社会的空間が存在する。たとえば病棟は、患者にとって治療を受ける場、眠ったり食事をしたりするプライベートな生活の場である。これに対して看護師にとっては職場である。このように病棟が複数の社会的空間が接合している場であることをふまえて、看護を取り巻く人びとの関係性とその変化、病棟での看護師と患者の社会的空間の接合部分にも着目したうえで、詳細な記述と分析をすることが求められる[大谷 2011]。
今回の発表で菅沼が取り上げるのは、沖縄県都市部に位置する滞在型低賃貸アパートに居住する老年者と他居住者及び地域との間で構築される/構築されない社会関係である。大谷は、自身が看護師として働いていたときに患者との関係性の中で感じた戸惑いと動揺を解消するための経緯を発表する。梅田は、梅田自身の臨床看護師時代のエピソードもふまえつつ、愛知県内に暮らす高齢者が「転倒」に向き合い、折り合いをつけていく事例について発表する。
 また、今回は看護学者、看護学者であり人類学者、人類学者が発表する。3名の発表を通して身体や命をめぐる事象のとらえ方に関する、看護学から人類学へのグラデーションを提示することができるだろう。ここに身体や命に関するフィールド、もしくは看護に関するフィールドに関心を持つ人類学者の一助となる「何か」が提示できるかもしれない。

参考文献
 池田光穂
  2010『看護人類学入門』文化書房博文社。
 大谷かがり
  2011「書評 書評:池田光穂著『看護人類学入門』」『文化人類学』76(3): 356-360。



<発表者要旨>

老年者と社会との接合に向けて―沖縄県都市部における独居老年者の社会関係構築の試みから考える
南山大学 菅沼文乃

 
1.福祉の閉鎖性による老年者の特殊化(構築主義的視点)
猪瀬浩平は普通学級就学運動における「障害」をめぐる実践の研究において、「障害」の社会構築について「近代の産業形態や、医療・教育制度のフィルターを通る中で、本来、文脈に応じて多様に変化する社会的役割は無視され、『障害者』という固定的カテゴリーを付与される」[猪瀬2005]とする社会構築論について触れているが、このような議論は老年者にもそのまま当てはめることができる。
「高齢者」のカテゴリー化は、政策に対する要求の高まりとそれに応える行政の作用にしたがって行われてきた。Chudacoffは、100年間の間に老人性痴呆と老齢化に必然g6的に伴う肉体的組織の物理的衰えを同一視する認識が誕生したことを指摘している[Chudacoff1989]。この認識は、福祉サービスを受ける基準に年齢を用いる制度や、老人ホーム等の福祉施設増加など、現在の日本社会で展開されている福祉の成立の一端も担っている。高齢者に関する行政システムの充実は、社会構造の中における年齢階層の捉えなおしがなされるようになったこと、すなわち老年者が「高齢者」という具体的な社会要素として実体化されることを意味している。したがって、現代社会には、老年期を人間の成長段階の一過程として捉えるという生物学的解釈だけではなく、社会的に設定されるカテゴリーとして捉える解釈も存在するという、猪瀬のいう「障害の構築」と同じ構造を見出すことができるのである。
発表者はこれまで、この社会的な老化が、老齢の人々に「老人」「高齢者」というレッテルを付与する―すなわち「老い」は社会的に設定されたカテゴリーである、という前提にもとづき、①行政による福祉政策が、日本の高度経済成長の中で、老年者を「社会的弱者」あるいは「社会で対処すべき問題」として客体化してきたこと、②昨今の「生きがい推進」を標榜するサークルや団体が、このような高齢者観を背景に組織されてきたことを指摘してきた[菅沼2008]。
また、福祉は老年者に不可視性をまとわせる役割も果たしている。老人ホームを対象とした民族誌研究では、施設内外の世界のすれ違いに着目し、施設が「閉じられた社会」であることを指摘している[高橋2001]。発表者は、老人ホームのような長期滞在型の福祉施設でなくとも、高齢者福祉全般にこの傾向がみられると考える。
というのは、高齢者福祉サービスは「生活支援サービス」として、従来からある数多くの生活関連サービスを複合しつつ、ネットワーク化を図るものとして展開されているものの、その拠点はいまだ地域にひらかれた施設とはなっていないのである。たとえばデイサービスの現場には、地区の民生委員、地方自治体によって指定管理者として認定された福祉法人の役員、そしてサービスの参加者である老年者しか存在せず、地域住民は、老年者の姿をみることはないのである。
第三回まるはち研究会では、福祉制度と老年者が再帰的に「高齢者」を構築し、その作用を隠ぺいする構造を指摘した。ここでは、福祉に参加する老年者を取り上げている。これに対して、本発表では福祉現場に参加しない独居老年者の事例を取り上げ、老年者の日常生活におけるネットワーク=社会関係の構築から、老年者が社会に接続するうえでなにが問題なのかを考える。

2.事例―老年者を含めたネットワーク構築の試みと問題
本発表の拠点となる辻地域は、1944年の10.10空襲により壊滅した琉球王府時代よりの公設遊郭跡地をもとに、湾岸の埋め立てを繰り返して整備された。第二次大戦後のアメリカ占領下における那覇市街、および那覇港周辺の軍用地化によって、辻地域周辺は長期にわたり立ち入りが禁止された。これによりそれまで遊郭を含む那覇港周辺に居住していた住民は、他地域への移動を余儀なくされる。そして解放後の米軍雇用の拡大、日本本土の高度経済成長により、各地方から那覇への就労を目的とする移住が盛んに行われる。辻地域には、宮古島からの移住者が多く居住し、米軍兵士向けのAサインバーや料亭、ホテルを経営してきた。
辻地域では2008年度8月の時点で1,235世帯、人口を2,464人とし、自治会、青年団、婦人会、老人会が組織されている。現住民も宮古島を中心とした他地域出身者がほとんどであり、彼らの高齢化がこの地域の高い高齢化率を支えるような形となっている。また、辻地域に限られたことではないが、移住にあたって血縁や地縁を頼った者が多いため、母村の親族関係が継続されているだけでなく、同郷者同士の強い結束にしたがって郷友会が結成されている[菅沼2012]。
戦後まもなく辻地域に移った者は、上述したように飲食店や宿泊業を一家で経営するケースがほとんどであったため、土地を求め家屋を建築し居住している。一方、立ち並ぶコンクリート製の住宅は、戦後間もなく建設されたものが多く、経年による老朽化のため、家賃の安いアパートとなっているものが多い。この地域のアパートに単身で世帯を構える老年者は、出身地を離れ、親族との離別・死別、同居への遠慮により独居を余儀なくされるケースが中心である。
本調査では、沖縄県都市部に位置する滞在型低賃貸アパートに居住する二人の老年者への参与観察から、彼らと他居住者及び地域との間で構築される社会関係の実状を調査・分析した。インフォーマントが居住するアパートは短期滞在型であり、沖縄県内での就労・移住を目的としその足掛かりとして入居する若者層の居住者が多い。そのため居住者の入れ替わりは激しく、居住者の匿名性が非常に高い。
調査の結果、社会関係は構築されているものの、当人の生活基盤である居住するアパートの性質に影響を受けることが明らかになった。すなわち、同郷者集団を構成しているという地域の性質は、地域単位で設置されている福祉サービスでの交流を困難にするため、はじめから選択肢に入れられていない。また、若者層の移住や就労の足がかりとして利用されるというアパートの特性によって、独居老年者に限らず社会関係は制限・短期間で更新され、あるいは本人の判断によって切断されるのである。
老化の過程や老年者の社会関係についての研究は、これまでの議論では社会関係構築の度合いや範囲に関する問題、また、労働―仕事の文脈による定年退職というきっかけによる社会関係の変化に注目する視点が中心であった[たとえば片多2004、副田1986]。しかし、とりわけ社会関係構築の実践自体を取り上げると、福祉サービス利用者が形成する集団性と、地縁と血縁を重視し、しかも両者がからみあう沖縄の社会構造からこぼれおちる老年者、今回の調査結果から示された。

3.まとめ
老年者の生活を支える上での孤立の解消・精神的扶養の一助のための、地域関係・友人関係によるコミュニティやサポートの必要性は先行研究において示されている[たとえば石嶺1989、當山・戸田・田場2003]。沖縄においてこれらは、以前は血縁・地縁によって支えられる社会的役割や精神的扶養に求められてきた。しかしながら、高齢化や独居世帯の増加によって、老年者をめぐる従来的な社会関係の維持と新たな関係の構築は困難となり、さらに、老年者が社会に現れる場面を覆い隠してしまう福祉制度の性質によって、老年者個人は社会から不可視の存在となる。さらに本発表の事例の場合、居住する地域やアパートの性質によっても、他者との交流から関係を構築することが困難である。他者との関係なしに、老年者が社会に接合されるのは難しい。
以上、本研究で示された結果を、老年者と社会との接合を目指すにあたっての一つの問題提起としたい。

参考文献
石嶺育子
1989「老人のモラールに関連する要因についての研究―対人関係を中心に―」琉球大学医学部保健学科修士論文。
猪瀬浩平
2005 「空白を埋める―普通学級就学運動における『障害』をめぐる生き方の生成」『文化人類学』70(3): 309-326。
片多順
 2004 「『老いの人類学』研究史」『老いの人類学』、青柳まちこ(編)、世界思想社: 223-241。
菅沼文乃
2008「生きがいの人類学―生きがい推進事業における高齢者の実践から」『南山考人』(36)5-14。
2012「宮古移住民の「故郷」と精神的帰属の変化―移住第一世代の定住化の側面から」『南山考人』 (40) 3-16。
當山富士子・戸田圓二郎・田場真由美
2003「へき地山村に居住する独居高齢者の“生活の術”」『沖縄県立看護大学紀要』4:79-85.
副田義也
 1986 「現代日本における老年観」『老いの発見2 老いのパラダイム』伊東光晴ほか(編)、岩波書店:83-110。
Chudacoff, Howard P.  1992 How Old Are You?: Age Consciousness in American Culture. Princeton Univ Press.



私の戸惑い、居心地の悪さを解消するための道のり―臨床での看護師と患者の接合部分に関する事例研究
 中部大学 大谷かがり

1. 本発表の問題意識
 私は看護学校を卒業して、静岡県内にある総合病院の慢性期ケア病棟に勤めていた。そこには癌を患う患者が多く入院していた。私は患者の話を聞くのが好きで、仕事の合間を縫っては患者の話を聞いた。中でも乳がんを患う女性の経験は、同じ女性として大変身につまされ、彼女たちの思いに共感した。
 しかし、戸惑い、その場に居づらいような、どうしたらいいのかわからないような居心地の悪い思いをすることもあった。私は、それは彼女たちの経験の内面にある日常的、多義的な意味を知らないからではないかと推測した。そして、患者のライフヒストリーからその人の乳がんを患う経験を考えれば、その意味を知ることができるのではないかと考え、ある乳がん患者であるAさんのライフヒストリーの聞き取りをおこなった。ライフヒストリーの聞き取りをすすめるなかで、彼女と私の関係性に変化が生じ、彼女の行動によって私は看護師でいられなくなった思われ、戸惑いを感じ、動揺した。このような戸惑いと動揺をどのように捉えたらよいのか。

2. 乳がん患者の看護学研究
 乳がん患者数は年々増加傾向にあり、日本乳がん学会の全国乳がん患者登録調査によると、2009年は約41,000人が罹患している。このうち男性の罹患数は150名(0.5%)であり、圧倒的に女性が多い[日本乳がん学会 2009]。乳がんと診断された女性は、化学療法、放射線療法、手術やリハビリを受けることになる。一般的に癌は5年の間再発しないといったん治療を終了するため、5年一区切りとされているのに対し、乳がんの場合は5年たっても再発のリスクがあるため、治療は10年一区切りとされており、他のがんと比べて2倍もの間乳がんと付き合っていかないといけない。もし再発すると、生きている間は付き合わなければならない。また、女性の象徴である乳房を患うことは女性としてのアイデンティティを揺るがせる
 。このような理由から、乳がん患者の不安や心理的な問題に関する医学や看護学研究が数多くみられる。
 1970年代は事例研究が多く見受けられるが(たとえば大久保[1975]など)、1980年代に入ると、患者たちの情報から患者の認知や行為の局面を収集して分類、構造化して、患者の心理的な問題とその法則性を見出す研究が現れる。たとえば尾沼ら[1986]は、STAIという不安の測定用具を用いて患者の不安の構成要素を分析している。
 1990年以降になると、乳がんを患い、乳房を切除すると身体的、心理的、社会的な苦痛が生じて乳がん患者のQuality of Life(以下QOLとする) が損なわれるという見解のもと、乳がん患者のQOL向上を目標にした研究が主流となる。90年代以降の研究は、STAIを用いた患者の不安測定[松本ほか 1992][古谷ほか 1992][渡ほか 2000][赤嶺ほか 2001]、聞き取り調査の内容を行動科学的に分析してQOLに影響を与える要因を探求する研究[木原ほか 1992][国府ほか 2002][大堀ほか 2003]、患者の不安やストレスとその対処方法のメカニズムを探る研究[古谷ほか 1992][尾沼ほか 1999][大堀ほか 2000][藤野ほか 1997][渡辺 2001]が主流となる。
 1990年後半になると、治療が一段落した後の、社会生活の中で起こる問題に関心が向く。治療後の心理的問題に関する研究では、治療がひと段落ついた後も患者の心を継続的にサポートしていく必要性があることを強く述べている。たとえば、患者が互いの経験を語り合う中で自分の問題の解決の糸口をつかんでもらうという、乳がん患者のサポートグループに関する研究[広瀬 1997][神谷ほか 2000][広瀬ほか 2001[小池ほか 2003]や、乳がんを患う経験について聞き取り、そこから患者の行動や感情を拾い上げて分類し、患者にとって乳がんを患うということはどういうことかを探求する研究[水野 1998][八木 2002]などがある。
 以上、乳がん患者の不安や心理的な問題に関する先行研究を発表年別に大まかに概観したが、研究の視点は、聞き取り調査から患者の不安やストレスなどの内容を明らかにすることから、聞き取り調査やアンケート調査をもとに得たデータから不安やストレスが起こる過程やそれらを構成する要素を明らかにすることへと移行していく。また、病期に言及すると、1990年代前半までは乳がんの初期治療(診断されてから手術、化学療法、放射線治療を受ける最初の一区切り)に焦点を当てて研究していたが、90年代後半から初期治療を終えた後までを対象とするようになった。

3. 本発表の目的
 しかし、これらの研究は、私の前述の戸惑いと動揺とは異なることについて論じてきたように思われる。言い換えれば、先行研究は、患者にとっての経験へと踏み込んでいったが、その経験の生じる場のひとつである臨床での看護師と患者の関係性そのものが主題とされることはなかった。
 このような問題意識を踏まえて、本発表では、ある乳がん患者のライフヒストリーの聞き取りと聞き取りを通した私自身の感情と思考の変化を事例として、看護と看護を取り巻く人びとの関係性とその変化を記述し、そのような変化がどのように生じていたのかを分析する。このような記述と分析によって、患者だけでなく、患者に接する看護師も含めた事例研究の可能性を提示する。

参考文献
 PLUMMER, Ken
  2001  Documents of Life 2. SAGE Publications Ltd.
 プラマー、ケン
 1991 『生活記録の社会学』原田勝弘他監訳、光生館。
 桜井厚
  2001 『インタビューの社会学』、せりか書房。
 菅野晴夫
  1997 「日本におけるがんの歩み」『日本がん看護学会誌』11(1):9-14。
 福富隆志
 2001 『乳がん診断マニュアル第二版』メジカルビュー社。
 The Japanese Breast Cancer Society, Shinzo KOBAYASHI, Mamoru FUKUDA
 2002  Results of questionnaires concerning breast cancer surgery in Japan: An update in 2000. Breast Cancer 9(1):1.
 大谷かがり
  2006 「乳癌を患う女性の経験」中京大学大学院社会学研究科院生論集第5号:39-54。
  2011 「書評:池田光穂著『看護人類学入門』」、『文化人類学』76(3): 356-360。
 尾沼美智子,多田昭栄,寺尾紀子
 1986「STAIによる乳癌患者の不安調査」臨床看護 12(11):1702-1705。
 大久保キヌ
 1975「乳がん患者の精神的変化の考察」看護技術20(15):107-11。
 松木光子,三木房枝,越村利恵他
 1992「乳癌手術患者の心理的適応に関する縦断的研究(1)―術前から術後3年にわたる心理反応―」日本看護研究会雑誌 15(3):20-28。
 古谷知恵,片山徳子
 1992「乳がん手術患者の心理的反応」月刊ナーシング 12(4):44-51。
 渡玉江,星山桂治,川口毅
 2000「乳がん患者の心理的適応過程と関連要因の解明に関する縦断的研究 乳房温存術と乳房切除術の比較」がん看護 5(6):509-516。
 赤嶺依子,具志堅美智子,池原香織他
 2001「乳癌術後患者の不安と対処行動の関連性―STAIとCISSによる検討―」母性衛生42(4):798-805。
 木原真市,松岡聖子,谷口まり子他
 1992「乳房切除術患者の意識 乳癌患者に影響を及ぼす言動」日本看護研究会雑誌 15(6):73-83。
 国府浩子,井上智子
 2002「患者による乳房切除術か乳房温存術かの選択に影響を及ぼす要因に関する研究」日本がん看護学会誌 16(2):46-55。
 大堀洋子,佐藤紀子
 2003「乳がん再発患者の生活の質(QOL)に関する研究―積極的に生活を整えている3名によって語られた内容からー」日本がん看護学会誌 17(1):35-41。
 古谷知恵,片山徳子
 1992「乳がん手術患者の心理的反応」月刊ナーシング 12(4):44-51。
 尾沼奈緒美,佐藤禮子,井上智子
 1999「乳がん患者の自己概念の変化に即した看護援助」日本看護科学会誌 19(2):59-67。
 大堀洋子,森山道代,佐藤紀子
 2000「乳癌術後の患者の気持ちの変化と対処行動―外来で補助化学療法を受けている患者へのインタビューの結果からー」日本がん看護学会誌14(1):53-59。
 水野道代
 1998「がん体験者の適応を特徴づける認識の構造」日本がん看護学会誌 12(1):28-40。
 藤野文代,大野絢子
 1997「乳癌患者の危機のプロセスと心理的適応に関する研究」群馬保健学紀要 18:55-60。
 渡辺孝子
 2001「乳がん患者の心理的適応に関連する要因の研究」日本がん看護学会誌 15(1):29-39。
 広瀬寛子
 1997「乳癌患者のための短期型サポートグループに参加した人の体験の意味」人間性心理学研究15(1):83-95。
 神谷昌枝,福井小紀子,小池眞規子他
 2000「乳がん患者に対する心理社会的介入:無作為化比較試験」乳癌の臨床15(6):750-751。
 広瀬寛子,久田満,青木幸昌,一鉄時江他
 2001「術後乳がん患者のための短期型サポートグループの機能に関する質的研究 グループ・プロセスの分析を中心に」がん看護6(5):428-437。
 小池眞規子,福井小紀子,神谷昌枝他
 2003「がん患者に対する心理教育的介入の有効性の検討」目白大学人間社会学部紀要3:35-50。
 八木彌生
 2002「乳がん患者が病う経験の意味」奈良女子大学大学院人間文化研究科人間文化研究科年報18:279-289。

資料
 日本乳がん学会
  2009 「全国乳がん患者登録調査報告書」


高齢者の転倒問題とストレスとしての転倒恐怖感
 転倒予防対策とは異なるアプローチの可能性について考える


中部大学生命健康科学部保健看護学科
 名古屋市立大学大学院看護学研究科博士後期課程  梅田 奈歩

はじめに
 高齢者の転倒に対する対策として、身体能力を維持するための運動療法を中心に、生活環境の調整から施設における管理体制の改革など地域や施設の現状に応じて、多面的な取り組みがなされている。このような取り組みは一定の効果をあげていることから是認されるものであるが、その一方で転倒予防対策を推進しても高齢者の転倒は現状のしくみでは完全には防げるものではないともいわれている(武藤 2010)。
 本発表の目的は高齢者の転倒予防をめぐる理想と現実から生じる齟齬としての転倒恐怖感に着目し、その対処として転倒予防とは異なるアプローチの可能性について検討することである。

1.      高齢者の転倒問題の現状
 わが国の地域在住の高齢者の転倒発生率(過去1年間の対象集団の延べ人数に対する発生した転倒の件数の割合)は10~25%、施設に入所している者は、施設によって差はあるが10~50%であると報告されており、このうち約半数には何らかの外傷が生じているといわれている(荻野
  2012)。頻度が高く重篤である大腿骨頚部骨折が生じた場合には、第一選択として手術療法が行われるが、入院・治療過程で安静を強いられることから骨折部位以外の身体機能、例えば肺炎や床ずれなどを引き起こすリスクも高くなる。また、手術後にリハビリテーションを行っても転倒前と同じ歩行の状態に戻ることは難しい。わが国では要介護に至った原因の9.3%を転倒・骨折が占めている(平成22年度国民生活基礎調査)。高齢者の転倒は当事者である高齢者のQOL(quality of
  life;生活の質、生命の質)を低下させるだけでなく、医療費負担や要介護人口の増加をまねくといった社会的な状況をも生み出している。言い換えれば、転倒は当事者の問題でありながら、同時に社会問題でもあるという二重の在り方をしているといえる。また、転倒は健康障害の原因であると同時に「転ぶくらい身体機能が弱っている」といえることから健康障害の結果であるとも考えられ、健康のリスク指標のひとつにもなっている(武藤 2010)。

2.      転倒予防という考え方と転倒予防対策が抱える課題
 転倒が当事者の健康問題であると同時に社会問題でもあるという状況は転倒という事象を「発生すること自体が望ましくないもの」とみなす社会を生み出している。その結果、転倒自体を未然に防ぐ(転倒予防)のための対策が地域や施設で盛んに推し進められている。そもそも転倒予防対策は高齢者個々に存在している転倒のリスク要因に何らかの介入をすることで転倒を回避するという考え方からなる。
 しかし、高齢者の転倒は単独の要因によって生じるものではなく歩行能力やバランス機能といった高齢者側の「個の要因」と道路や施設などの構造、施設におけるケアの方法や管理体制といった「環境の要因」が組み合わさって生じている。つまり、それらの要因の組み合わせは多数あり、すべての要因を的確に予測することは事実上困難であり、個別のケースに対応したオーダーメイドの転倒予防対策の実現は至難の業であるといえる。
 こうしたことから、近年、高齢者の転倒には「介入により防ぐことのできる転倒」と「現状のしくみでは防ぐことのできない転倒」の二種類がある(武藤 2010)ということが明言されている。しかし、実際に施設で転倒が発生した場合に「防ぐことのできない転倒」であったか否かを現場のケアスタッフが判断することは難しく、当事者である高齢者にはさらに困難である。
 つまり、転倒の無数の要因を十全に予測することが困難であること、さらに「防ぐことのできない転倒」という認識が十分に浸透していないことから、高齢者の転倒は高齢者自身と高齢者を支える周囲の人々を同時に苦しめている「厄介な存在」となっている。

3.      転倒恐怖感の出現
 このような転倒をめぐる状況によって、一部の高齢者は転倒に対して恐怖感や不安感(以下;転倒恐怖感)が生じ、外出などの転倒しそうな活動を過度に抑制しているといわれている(Tinetti 1993, 新野 2010)。極端な活動制限は高齢者の身体機能を低下させ、転倒のリスクが高まるという悪循環を引き起こすとともに閉じこもりに移行するケースもあるといわれている。また、転倒で入院している高齢者にとって転倒の経験は痛みや外傷体験としてとらえられており(平ほか2002)、地域在住の高齢者では転倒恐怖感はネガティブな経験としてだけではなく、無能さ(incapacitation)や依存のおそれ(fear of dependence)、家を離れなければならないこと(having to leave their home)と結びつけられて語られていた(Lee et al.
  2008)。これらの研究から、高齢者にとって転倒は、単に転ぶということにとどまらず、自らの置かれた状況にまつわる何らかの要素によって、脅威を与える存在になっていると考えられる。

4.      ストレスとしての転倒恐怖感と新たな対処アプローチの可能性
 こうした高齢者の転倒恐怖感についての研究を踏まえて、発表者は心理学者であるラザルス(1984,1999)のストレス-対処(コーピング)理論を援用して転倒恐怖感を高齢期のストレスとする仮説を立てて研究を行っている。ラザルス(1984,1990)は(心理的)ストレスとは「ある個人の資源に何か重荷を負わせるような、あるいはそれを超えるようなものとしての評価された要求である」と定義しており、対処に関しては問題解決型と情動焦点型のふたつのアプローチを提示している。発表者の研究仮説は高齢者が転倒にまつわる出来事に対して何らかのストレスが生じた場合に恐怖感が生じ、対処行動のひとつとして転倒しそうな活動を抑制していると位置付けている。この場合、過度な活動抑制は不適切な対処であ
 るともいえるため、適切な対処行動を導くという視点から転倒問題に対する新たなアプローチの可能性が開かれると考えられる。
 また看護学者であるベナーとルーベル(1989)はラザルスの考え方から着想を得て現象学の見地からストレスと対処について論じている。「人が何をストレスと感じそれにどう対処しうるかはその人の気づかい(caring)のありようによって決まる」としながらも、対処についてはラザルスとは異なる見解を示し、「ストレスに対する解消策のことではない」と述べている。「人がこの状況を切り抜けて新しい現実に到達しようと思うなら、そうした感情はそれとして承認しなければならない」として「(看護の対象が)いかなる関心をもち、どのような世界を生きているのか」を解釈する者としての医療従事者の役割を示している。つまり、ストレスによって生じた恐怖感を当事者の生活や関心のなかで位置づけ解釈し
 、対処行動を導くことを「気づかい」として捉えている。発表者の関心にひきつけていえば、高齢者が何に関心をもちながら転倒にまつわる世界を生きているのかを「気づかう」というアプローチの可能性が示されているといえる。

5.      本発表で目指すもの
 本発表はまず高齢者の転倒と対策についての現状を概観し、発表者の臨床看護師時代のエピソードも交えて紹介ながら高齢者の転倒という「厄介な存在」の不可思議さについて確認していく。転倒恐怖感にストレスという概念を適用した発表者の研究の中から地域で暮らしている高齢者は「転倒」にどのような脅威を持っているのかという研究結果(梅田
  ほか2011)を提示する。さらに高齢者が「転倒」とどのように距離を取り、向き合い、折り合いをつけているのかという事例を紹介し高齢者が何に関心をもちながら転倒にまつわる世界をどのように生きているのかについての一端を明らかにする。最終的には高齢者の転倒問題に対して転倒予防とは異なる新たなアプローチの可能性について検討し、現行の転倒予防対策と相補的に活用していくことの意義についても述べたい。

文献
 梅田奈歩、山田紀代美
 2011 「地域高齢者の転倒に対する脅威の構造;年代及び老性自覚と転倒の脅威との関連についての検討」老年社会科学 33(1):23-33
 荻野浩
 2012 「リハ医に役立つベーシック老年医学 15高齢者の転倒対策」、JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION 21(3):272-277
 平真紀子、泉キヨ子、河村一海 他
 2002 「入院高齢者の転倒経験とその後の予防のとらえ方」、日本看護研究学会雑誌25(2):17-28
 Tinetti  ME, Powell  L
 1993 Fear of falling and low self-efficacy, A cause of dependence in elderly persons, J Gerontol 48 : 35-38
 新野直明
 2010 「転倒の心理的影響;転倒恐怖感に関する疫学的検討」老年社会科学第52回大会報告要旨号32(2):144
 ベナー P、ルーベル J
 1989「現象学的人間論と看護」難波卓志訳、医学書院
 武藤芳照
 2010 「ここまでできる高齢者の転倒予防-これだけは知っておきたい基礎知識と実践プログラム-」、日本看護協会出版会
 ラザルス R.S.
 1990 「R.S.ラザルス講演 ストレスとコーピング-ラザルス理論への招待」林 峻一郎 編・訳、星和書店
 Lazarus R.S.
 1991 Progress on a cognitive-motivational-relational theory of emotion, American Phychologist 46 : 819-834
 Lazarus R.S.
 1984 「ストレスの心理学‐認知的評価と対処の研究‐」本明寛、春木豊、織田正美監訳、実務教育出版
 Lazarus R.S.
 1999 「ストレスと情動の心理学;ナラティブ研究の視点から」本明寛監訳、実務教育出版
 Lee F, Mackenzie L, James C
 2008 Perceptions of older people living in community about their fear of falling, Disability and Rehabilitation, 30(23) : 1803-1811
 厚生労働省、平成22年国民生活基礎調査の概況http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa10/4-2.html