朝夕はめっきり涼しくなりましたが、皆様にはいつもながらお変わりなく何よりに存じます。
第23回まるはち人類学研究会の詳細が決定しました。お忙しいと時期は思いますが、皆様に会場でお目にかかれますことを楽しみにしております。
主催 : 日本文化人類学会中部地区研究懇談会、まるはち人類学研究会
日時:2014年10月4日(土) 14:00~17:20
場所:南山大学人類学研究所1階会議室(研究所管理責任者 後藤明)
<合評会>
新ヶ江章友(名古屋市立大学男女共同参画推進センター特任助教)
『日本の「ゲイ」とエイズ』(2013、青弓社)
『日本の「ゲイ」とエイズ』(2013、青弓社)
14:00~14:05 趣旨説明
14:05~15:00 自著解題
15:00~15:15 休憩
15:15~15:45 コメント①風間孝(中京大学)
15:45~16:15 コメント②西真如(京都大学)
16:15~16:30 休憩
16:30~17:20 質疑応答
<本書の主題>
①日本における「ゲイ・コミュニティ」が、HIV/AIDS施策とどのように密接に結び付きながら生成されていったかを明らかにした。
②同性愛者の存在を可視化させ、「ゲイ・コミュニティ」を生成させ、そこにMSM(Men who have Sex with Men、以下、MSMとする)を動員させるHIV感染予防施策の問題点と限界を明らかにした。
日本における男性同性愛者は、長らく具体的な表象を欠いた不可視な存在だったが、1980年代にはじまるHIV/AIDSの社会問題化は、疫学的な観点から男性同性愛者たちを「リスク・グループ」として把捉しようとするなかで、男性同性愛者を「主体」として生成してきた。HIV/AIDSの社会問題化は、日本での男性同性愛者の政治化と可視化を促す契機だったと同時に、男性同性愛者たちにとっては、自らの性自認や自己規定を見つめ直し、行動面の変容から「生き方」そのものまでをも大きく変容させるような経験だったといえる。
本書は、一方で、HIV/AIDS関連施策について膨大な公的資料を詳細に分析することで、男性同性愛者の存在が、政策的な言説の中でどのように表象されたのか/表象され得なかったのかを分析すると同時に、男性同性愛者向けの雑誌の言説分析や、男性同性愛者当事者たちへのインタビューを通して、そのような疫学的な言説と接触することで、男性同性愛者たちの経験がどのように変容してきたのかを明らかにするものである。
こうした分析の中で、本書は公的なHIV/AIDSの予防施策が、「ゲイ・コミュニティの活性化」というかたちで推進される中で、「MSM」が「ゲイ・アイデンティティ」をもつように自己規定を変容させると同時に、「HIV/AIDSの感染リスクを管理する責任のある主体」として主体化的に作動していく側面を、批判的に描いていく。それと同時に、そうした既存の政策のフォーマットにおさまりきれない、男性同性愛者たちの多様性に富む性自認や性的指向を明らかにすることで、当事者たちにとっての経験/意味に即した新たなHIV/AIDS対策を模索していくものである。
第1章 HIV/AIDS研究と人文・社会科学
1 文化人類学のなかのHIV/AIDS
HIV/AIDSと啓蒙――経験主義的認識パラダイムの視点
リスク・グループの文化?
HIV/AIDSの文化理論
2 クィア人類学とHIV/AIDS
国民国家とゲイ・アイデンティティ
アイデンティティをめぐる戦略
3 新たな研究の展開に向けて
第2章 日本におけるHIV/AIDSの言説と男性同性愛者
1 奇病としての「AIDS」
2 AIDSの実態把握に関する研究班
3 日本のエイズ第一号患者
4 エイズ・パニックと女性の表象
第3章 エイズ政策と日本人男性同性愛者の主体化
1 HIV感染不安の身体
IGA日本の場合――日本におけるゲイ・アクティビズムのはしり
「薔薇族」の場合――不安に駆られながら隠れる人々
「さぶ」の場合――HIV抗体検査を受検すべきか?
2 新たな主体としての男性同性愛者
3 日本と外国の男性同性愛者
4 「ゲイ」による「ゲイ」のための研究
第4章 HIV感染予防をおこなう責任ある主体の生成
1 歴史に刻まれた疫学調査
2 オーストラリアと「ゲイ・コミュニティ」
日本の疫学研究とオーストラリア
HIV/AIDS研究における「ゲイ・コミュニティ」概念
グローバル化する「ゲイ・コミュニティ」概念
3 MSMを統治する
MSMとは誰か
MASH大阪におけるMSM
カテゴリーをめぐる変遷
4 「ゲイ」という主体と国家の承認
5 日本における「ゲイ・コミュニティの誕生」
MASH大阪の場合
ANGEL LIFE NAGOYA(ALN)の場合
Love Act Fukuoka(LAF)の場合
第5章 HIV感染リスクをめぐる認知と主体の形成
1 研究者によるリスク認知
リスクを定義する
リスクを計算する
2 MSMからゲイ男性へ
MSMを動員する
MSMの臨界点
「ゲイ・コミュニティ」とインターネット
3 男性同性愛者によるリスク認知
不分明領域としてのリスク
リスクと穢れ
「決定」を委ねる
4 HIV/AIDSとともに生きる希望
終章 自己変容の人類学に向けて
第3章
第2章で見てきたような日本での男性同性愛者の言説表象上の「不在/希薄/曖昧」であるような状態から、HIV/AIDSの社会問題化を契機として、どのように男性同性愛者たちが自らを「HIV/AIDSに感染する可能性のある人間」として主体化/身体化し、可視的な存在となっていくのかを、男性同性愛者の支援に関わる関連団体への聞き取りや、男性同性愛者向けの雑誌の分析から明らかにしていく。
<本書の主題>
①日本における「ゲイ・コミュニティ」が、HIV/AIDS施策とどのように密接に結び付きながら生成されていったかを明らかにした。
②同性愛者の存在を可視化させ、「ゲイ・コミュニティ」を生成させ、そこにMSM(Men who have Sex with Men、以下、MSMとする)を動員させるHIV感染予防施策の問題点と限界を明らかにした。
<本書の概要>
本書『日本の「ゲイ」とエイズ―コミュニティ・国家・アイデンティティ』は、日本において男性同性間で性行為を行う男性同性愛者たち(MSM)の経験について、1980年代から90年代に本格化したHIV/AIDSの社会問題化との関係から明らかにする文化人類学的研究の成果である。日本における男性同性愛者は、長らく具体的な表象を欠いた不可視な存在だったが、1980年代にはじまるHIV/AIDSの社会問題化は、疫学的な観点から男性同性愛者たちを「リスク・グループ」として把捉しようとするなかで、男性同性愛者を「主体」として生成してきた。HIV/AIDSの社会問題化は、日本での男性同性愛者の政治化と可視化を促す契機だったと同時に、男性同性愛者たちにとっては、自らの性自認や自己規定を見つめ直し、行動面の変容から「生き方」そのものまでをも大きく変容させるような経験だったといえる。
本書は、一方で、HIV/AIDS関連施策について膨大な公的資料を詳細に分析することで、男性同性愛者の存在が、政策的な言説の中でどのように表象されたのか/表象され得なかったのかを分析すると同時に、男性同性愛者向けの雑誌の言説分析や、男性同性愛者当事者たちへのインタビューを通して、そのような疫学的な言説と接触することで、男性同性愛者たちの経験がどのように変容してきたのかを明らかにするものである。
こうした分析の中で、本書は公的なHIV/AIDSの予防施策が、「ゲイ・コミュニティの活性化」というかたちで推進される中で、「MSM」が「ゲイ・アイデンティティ」をもつように自己規定を変容させると同時に、「HIV/AIDSの感染リスクを管理する責任のある主体」として主体化的に作動していく側面を、批判的に描いていく。それと同時に、そうした既存の政策のフォーマットにおさまりきれない、男性同性愛者たちの多様性に富む性自認や性的指向を明らかにすることで、当事者たちにとっての経験/意味に即した新たなHIV/AIDS対策を模索していくものである。
<目次>
序章 「ゲイ」と国家の関係を問う第1章 HIV/AIDS研究と人文・社会科学
1 文化人類学のなかのHIV/AIDS
HIV/AIDSと啓蒙――経験主義的認識パラダイムの視点
リスク・グループの文化?
HIV/AIDSの文化理論
2 クィア人類学とHIV/AIDS
国民国家とゲイ・アイデンティティ
アイデンティティをめぐる戦略
3 新たな研究の展開に向けて
第2章 日本におけるHIV/AIDSの言説と男性同性愛者
1 奇病としての「AIDS」
2 AIDSの実態把握に関する研究班
3 日本のエイズ第一号患者
4 エイズ・パニックと女性の表象
第3章 エイズ政策と日本人男性同性愛者の主体化
1 HIV感染不安の身体
IGA日本の場合――日本におけるゲイ・アクティビズムのはしり
「薔薇族」の場合――不安に駆られながら隠れる人々
「さぶ」の場合――HIV抗体検査を受検すべきか?
2 新たな主体としての男性同性愛者
3 日本と外国の男性同性愛者
4 「ゲイ」による「ゲイ」のための研究
第4章 HIV感染予防をおこなう責任ある主体の生成
1 歴史に刻まれた疫学調査
2 オーストラリアと「ゲイ・コミュニティ」
日本の疫学研究とオーストラリア
HIV/AIDS研究における「ゲイ・コミュニティ」概念
グローバル化する「ゲイ・コミュニティ」概念
3 MSMを統治する
MSMとは誰か
MASH大阪におけるMSM
カテゴリーをめぐる変遷
4 「ゲイ」という主体と国家の承認
5 日本における「ゲイ・コミュニティの誕生」
MASH大阪の場合
ANGEL LIFE NAGOYA(ALN)の場合
Love Act Fukuoka(LAF)の場合
第5章 HIV感染リスクをめぐる認知と主体の形成
1 研究者によるリスク認知
リスクを定義する
リスクを計算する
2 MSMからゲイ男性へ
MSMを動員する
MSMの臨界点
「ゲイ・コミュニティ」とインターネット
3 男性同性愛者によるリスク認知
不分明領域としてのリスク
リスクと穢れ
「決定」を委ねる
4 HIV/AIDSとともに生きる希望
終章 自己変容の人類学に向けて
第1章
人文・社会科学のHIV/AIDS研究に関する先行研究を概観・整理し、HIV/AIDS研究のあり方や研究者としてのHIV/AIDS問題への関わり方を検討する中から、本書が採用するHIV/AIDS研究の視点や問題へのスタンスなどを提示する。本書での研究は、男性同性愛者の主体や文化が、どのように公衆衛生や疫学的観点にもとづく予防施策と連動しながら形成されてきたのかを、民族誌的な視点から明らかにする試みとして位置づけている。
第2章
アメリカでのエイズの発見から日本のHIV/AIDS言説がどのように形成され、またそうした言説編成と権力関係の中で、男性同性愛者の表象がどのように規定されていたのかを明らかにする。アメリカでHIV/AIDSの言説が常に男性同性愛者と密接に結びついていたのに対し、日本のHIV/AIDSの言説の特徴は、男性同性愛者の存在が非常に曖昧な影のような存在としてしか表象されてこなかったという点にある。本章は、男性同性愛者をめぐる日本の言説表象を通時的に分析し、男性同性愛者をめぐる権力関係の布置を明らかにしようと試みる。第3章
第2章で見てきたような日本での男性同性愛者の言説表象上の「不在/希薄/曖昧」であるような状態から、HIV/AIDSの社会問題化を契機として、どのように男性同性愛者たちが自らを「HIV/AIDSに感染する可能性のある人間」として主体化/身体化し、可視的な存在となっていくのかを、男性同性愛者の支援に関わる関連団体への聞き取りや、男性同性愛者向けの雑誌の分析から明らかにしていく。
第4章
第3章での分析を時系列的に引き継ぎながら、1980年代から90年代にピークに達する公的な疫学的調査と男性同性愛者のコミュニティとの協力体制の形成過程を分析する。本章が強調するのは、日本での「ゲイ・コミュニティ」の形成が、国家によるHIV/AIDS政策との結びつきの中で初めて可能になったという点である。
第5章
日本の疫学研究者と男性同性愛者のあいだでHIV/AIDSに関する「リスク」の認知がどのように異なるのかについて、男性同性愛者からのインタビューから彼らの性的実践の多様性を示すことで明らかにしていく。本章は、こうした研究者と男性同性愛者の間の「ずれ」を検出することが、よりよい予防介入につながるのではないかという立場から分析を行う。